「バラの香りがしたろう」とトビーアスは続けた。
「グアカマヤルの水死体と同じ匂いだったよ」
「いい香がしたんなら、きっと海のじゃないわね」
「どうせ死ぬのなら身分のある人のように土の下で埋めてもらいたい」
García Márquez ガルシア・マルケス(1982年・ノーベル文学賞受賞)
El mar del tiempo perdido(失われた時の海)コロンビア出身・スペイン語。
紹介
手法はマジックレアリズム。それは現実では起こりえないことも現実というもの。
例えばこの話にある「海からバラの香りがする」という表現も、この物語では現実です。マルケス自身は祖国コロンビアではなく、ヨーロッパに移住して書いたそうです。
「失われた時の海」とは、固すぎる土のせいで、この土地は死体を土に埋めることが出来ないので海に流す習慣があります。
そんな土地の海が三月となると、薔薇の香りがし始めます。その香りについて人々は神のお告げだと言いますし、それは嘘だとも言います。そんな中で、しまうところもない大金に困っているという男、教会建設のためにお金の相談をしにくる司祭(神父)がやってきます。この何とも筋がつかみにくい流れが「現実」というわけです。
「日毎(ひごと)に波が穏やかになり、燐光を放ちはじめた。三月になると、夜はバラの芳香が漂ってくるようになった」とありますが、
海の燐光とは、夜の月のことでしょう。
その証拠にこの燐光の影響で星を数えるのに苦労するとあります。
登場人物トビーアスは、蟹を殺せず、最後は蟹が静かになるまで寝付けなかった。蟹と月は強い繋がりがある。海外では月の模様は蟹だと言われてるし、星座でいうと蟹座の守護星は月だからだ。月とは太陽の熱や光の影響を受けて存在する、ということは月は自分では熱や光を放てないということでもある。その影響かこの世界の人は自分で熱や光を放とうとはせずに、「死に場所」を探すような話を繰り返す・・・・・・
「この海から遠く離れたところで死にたい、ずっとそう思いつづけてきたんです。ここでバラの香りがするなんて、きっと神様のお告げに違いありませんわ」と、それこそ月の引力のように。
けれどもこの土地は月という形は無いのかもしれない。 月のような淡い光がある海ということだろう。引力だけがある土地、海から離れようとする人達、失われた時の海から離れようとすることは、時を手に入れようとしているのかもしれないが、何も本当のところは分からない。それこそマジックレアリズムの醍醐味かもしれない。
よく登場するバラの香り。
著者の祖国のような赤道が通過する国は 日射量が多い場所で、その土地でのバラは色鮮やかな大輪が育つのだそうだ。色鮮やかなバラの芳香について話しを巡らせては、神父は40センチ程、宙に浮き、この土地に教会を建てようとしたが、お金を集められなかったので諦めてこの土地から離れる。
明瞭とは程遠い淡い話、押し寄せては引いて行く薔薇の芳香が、空想的な死体の印象を残す。
この土地の死生観は「人は死ぬべき時ではなく、そう願った時に死ぬものだと聞いていたので」 というようなもので、
やはりこちらは、私達の現実とは違う 「現実」小説世界は現実世界の関心を、様々な手法や視点によって表現する。例えば「死」「貧しさ」という対象を書くということ、
ガルシアマルケスの死や貧しさは呼吸が軽く感じた。深みはあるが語るほうの呼吸は軽い。特に太宰治の後は 呼吸が軽い。(勝手に私が重くしただけなのか分からないのですが)反動のせいか、ガルシア・マルケスが以前より整理しやすかった。勿論、マジックレアリズムは南米の情勢無しでは語れないようなのですけど、何らかしら置き換えたということは半分以上は想定と想像に委ねていると思う。
酒井司教、女子パウロ会、瀬戸内寂聴からも楽しんで読んでもらえた
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